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それから婆様は山を下りるとき、佐助を小屋の中へ置いていくようになった。
「ええか。いっくら退屈になっても一人で沢の方へ近づいたらいかん。三段岩の近くの茂みに大きな蜂の巣があって熊がでるかもしれんからそっちも近寄ったらいかん。小屋ん中で大人しいしとれ」
そう佐助に言って聞かせる。一人で一日待つのは不安だったが、佐助の幼い心には里へ下りることへの恐怖心がこびりついていたので「大人しいしとる」と約束して頷いた。
小屋を出る間際まで婆様は何度も振り返り、最後に「山の主様にお願いをしていこう」と呟いて出掛けて行った。
いつもなら、婆様について木の実や野草を採りに行ったり、婆様が小屋の近くの小さな畑の手入れをする傍で山の鳥や獣や虫を見て遊ぶ。
だが狭い小屋の中で出来ることは限られていて、すぐに退屈で堪らなくなる。
小屋の明り取りの格子には背が届かず、外は見られない。
だから仕方なく耳を澄ます。
ああ、今日も雲雀がお喋りに夢中になってる。
ヒヨドリと喧嘩をしているように聞こえるのはカケスじゃろうか。
かーんかーんとアカゲラが巣をつくる音も遠くから響いてくる。
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