怖い猫

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モノゴコロつく頃には猫がいた。 猫派が犬派に圧倒的に押されていた時代。 我が家は100%猫派だった。 我が家には猫に関して 幾つか暗黙のルールがある。 その1つが、猫は買わない。 行き場に困ってる猫となら同居可……だ。 一度に沢山の猫を飼える程 我が家は広くない。 でも少なくとも 一匹の殺処分を救う事はできる。 実家の初代猫は 太ったチョコレート色のシャム猫だった。 彼の動きは緩慢で シャムというより狸に近かった。 そんな彼にも幼少時代はあり 普段無口な祖父が 木から降りられなくなった 小さな彼を救出したのが縁で シャムは我が家に来た。 彼が亡くなってだいぶ経った頃だった。 怖い猫に出逢った。 Y県に住む叔父の所へ遊びに行った時の事だ。 青々と葉の茂る葡萄棚の下を 颯爽と歩く貴公子。 叔父に「シッシッ!」と言われても 全く怯まない。 冷めた目で一暼すると 奴はゆったり歩み去った。 それは猫面喰いな母でなくても 見惚れる美しさだった。 ブルーグレーの肢体。 ライラックポイントのシャム猫。 痩せすぎず骨太な身体つきは 種を超えて恋に落ちても不思議じゃない。 指をさしながら口をパクパクさせる 我々をよそに叔父は言った。 「アイツは悪さする猫だから 処分される事になってる」と。 慌てた我々は貴公子を引き取った。
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