怖い猫

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又ある時は酒屋さんを泣かせた。 注文を取って車に戻ると 当たり前の顔で助手席に座っている。 降ろそうとすると 恐ろしい目で睨み無言で威嚇するらしい。 お前……何でそんなに 助手席にこだわるんだ。 そして冬、事件が起こった。 今も家族に語り継がれる 『謎の穴』事件……。 靴下を履こうとすると爪先が無い。 踵が無い。 ピンポン玉程の丸い穴が ポッカリ空いている。 なんか、スンゴイ貧乏で 可哀想な家族みたいな足元だ。 靴下だけじゃない。 セーターやクッションにも 同じ現象が起こった。 正体は見せないが確実に何かいる ……という恐怖。 家族会議で母は 「夜中に巨大な青虫が コッソリ出て来て靴下を齧って 屋根裏かどっかへ帰って行く」説を 真顔で披露した。 或いはキャトルミューチレーション的に 宇宙人ぽい生物が何らかの調査で サンプルを採ってる説まで出る始末。 夜中トイレに起きた私は 暗がりでギシギシと奇妙な音を立てながら 蠢く影を見た。 勇気を出して部屋に電気をつけると そこには殺し屋が……。 靴下にかぶりついている殺し屋。 お前何でそんなモノ食べてるんだよ! そんな殺し屋も恋に落ちた。 いや。チビが恋に落ちたと 言った方が良いのか。 二匹はコッチが恥ずかしくなる位 べったりくっ付いてラブラブだった。 チビは殺し屋にいつだって寄り添い 頭を引っ掴んでは顔 をベロベロ舐めまくった。 子供も生まれた。 チビソックリなのと 殺し屋ソックリなのと 中間、全身グレーな仔猫。 妻を手伝って 殺し屋もよく子供の世話をしていた。 クールな顔して仔猫を咥える殺し屋は まるで鋭い眼光で獲物を運ぶ猛獣……。 我が家に来て5年位経った頃 殺し屋は病に倒れた。 見る見る間に痩せて餌は食べず、 水を飲むばかり。 それすらフラつきトイレもままならない。 そんな状況でもプライドが高く、 人間の世話にはなりたがらなかった。 最期の日、 殺し屋は私のベッドの下で息絶えていた。 まだ体は暖かかった。 信じられなかった。 体が動かなかったのに 階段を上って来たのか。 最後にベッドに上がる力は なかったんだろう。 殺し屋の横にチビが黙って寄り添っていた。 猫は家に付くという。 でも初代の猫は父に付いていた。 チビは兄に。 後にやって来る黒猫は母に。 eee2054f-94eb-434d-90c5-7b18927a235c 殺し屋は最期 私に付いてくれたのかと思うと ……一人泣けた。
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