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「あれは母さんが録音したものだ」
一旦アニモの電源を切り、父に電話をかけた。電話越しの父は俺が連絡してくることなどわかっていたかのようで、非常に落ち着いているのがまた腹が立つ。
「アニモには録音機能があるのは知ってるだろう」
「それくらいは知ってるけど」
「あの中には料理の作り方や家事のコツがなんかが入っている。今のお前には助けになるはずだ」
はずだ、と言われても困る。
確かに電源を切る前のアニモからは、肉じゃがの作り方の音声が流れてきた。
レシピというには大雑把で適当な母流アレンジだったが、絵文字のように親しみやすい顔をしたアニモから母の声が再生されるのはやっぱり戸惑う。
「音声だけ切ることって出来ないわけ?」
聞いてみても父は答えない。
それどころか「次はいつ帰ってくるんだ?」と露骨に話題を変えられて、不毛な会話に飽き飽きした俺は電話を切った。
どうやら母の声を録音したアニモとの共同生活は避けられなさそうだ。
俺が高校に入学して間もなく倒れた母は、闘病も虚しく半年で亡くなった。
亡くなるまでの半年間、病床でも母はいつもの母だった。
俺と父が二人で暮らしていけるかの心配からはじまり、果ては 母が手間暇かけて世話した花壇の花々の様子を気にかけ、とにかくお節介で世話焼きだった。
「いくらお節介だからって、ここまでするかよ」
ツッコミを入れるつもりで、アニモの頭部を軽く叩く。
その拍子に電源が入ったらしく、アニモの頭部正面部分がチカチカッと光る。
「タカシ、あんたご飯は食べたの?」
目にあたる部分だけが瞬いているに過ぎないのに、母の声がするせいか何だか怒っているように見えて決まりが悪い。
それでも数年ぶりに聞いた母の声は、やっぱりいつもの母の声だった。
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