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アニモを壊したあの夜から月日は流れ、俺は文房具メーカーの営業としてなんとか社会人をしている。
永遠に終わらないと思えた就活も、今では遠い昔だ。
「ねえタカシ、お鍋とかどうする? まだ使えそうだし持ってかない?」
「てっきり捨てるもんだと思ってた。だってどれもボロいだろ」
「使えるものは使わないと。お金なんてあっという間になくなっちゃうんだから」
父からの月1度の仕送りだけが頼りだったキッチンには、いくつかの調理器具が並んでいる。アニモが話した母のレシピを元に、拙いながらも料理をするようになったのだ。
一人用の鍋や焦げ付いたフライパンを吟味しているシホの表情は真剣そのものだ。
シホは会社の同期で、付き合って3年が経つ。
俺が手作りの弁当を会社に持参したことをきっかけに、料理好きのシホとの交際がスタートした。
半同棲という形をとっていたが、二人のものが増えた部屋は手狭で、春を前に引っ越すことが決まっている。
「こっちは私やるから、タカシは向こうを片付けてきてよ」
「はいはい。お任せしますよ」
向こうといってもワンルームのこの部屋では目と鼻の先だ。大学に入ってから今まで過ごした狭い狭い部屋。その片隅に、白くてまあるい球体の頭部をしたアニモがある。
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