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壊れてしまった……いや、俺の不注意で壊したアニモとは、今もまだ一緒に暮らしている。
あれ以来母の声が流れることはないが、どうしても捨てることが出来なかったのだ。
「でも、いい加減どうにかしないとなぁ」
引っ越し先に持っていくかどうか、シホは俺の判断に委ねると言ってくれている。
脚部にあるクリーナー機能はフィルターが目詰まりをおこして働いておらず、いくら調整しても時計には日々ズレが生じる。ガタがきているなんてレベルじゃない、立派なポンコツロボットだ。
俺の膝ぐらいの高さしかないアニモに目を合わせると、ぎこちない動きでこちらへと近づいてくる。
「なんだ? どうした、アニモ」
アニモはのろのろと俺の背中に回り込み、とんっと軽くぶつかる。ついに頭部に内蔵されたモニターまでいかれたか? 確認しようと振り向きかけたその時。
「……タカシ」
「!」
母の声だ。
ノイズが混じって聞き取りにくかったが、確かに今のは母の声だった。
前進をやめたアニモのほうを向き、真ん丸の頭にポンと手を置いた。
「そうだな、お前も一緒に行くか」
話しかけてもアニモは何も答えない。
数年ぶりに流れた音声は、機械の誤作動に過ぎないとわかっている。
それでも今の声は、俺にとっては確かに母の声だった。世話焼きでお節介で、自分のことより家族を思う母そのものだった。
「向こうの家は広いからたくさん掃除してくれよ」
ポンポンと二回頭部を撫でる。目にあたる部分がゆっくりと点滅して、まるで笑っているみたいだった。
母の声が録音のされていた旧型家庭用ロボット、アニモ。アニモとの暮らしは、まだまだ続きそうだ。
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