1章

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壊れてしまった……いや、俺の不注意で壊したアニモとは、今もまだ一緒に暮らしている。 あれ以来母の声が流れることはないが、どうしても捨てることが出来なかったのだ。 「でも、いい加減どうにかしないとなぁ」 引っ越し先に持っていくかどうか、シホは俺の判断に委ねると言ってくれている。 脚部にあるクリーナー機能はフィルターが目詰まりをおこして働いておらず、いくら調整しても時計には日々ズレが生じる。ガタがきているなんてレベルじゃない、立派なポンコツロボットだ。 俺の膝ぐらいの高さしかないアニモに目を合わせると、ぎこちない動きでこちらへと近づいてくる。 「なんだ? どうした、アニモ」 アニモはのろのろと俺の背中に回り込み、とんっと軽くぶつかる。ついに頭部に内蔵されたモニターまでいかれたか? 確認しようと振り向きかけたその時。 「……タカシ」 「!」 母の声だ。 ノイズが混じって聞き取りにくかったが、確かに今のは母の声だった。 前進をやめたアニモのほうを向き、真ん丸の頭にポンと手を置いた。 「そうだな、お前も一緒に行くか」 話しかけてもアニモは何も答えない。 数年ぶりに流れた音声は、機械の誤作動に過ぎないとわかっている。 それでも今の声は、俺にとっては確かに母の声だった。世話焼きでお節介で、自分のことより家族を思う母そのものだった。 「向こうの家は広いからたくさん掃除してくれよ」 ポンポンと二回頭部を撫でる。目にあたる部分がゆっくりと点滅して、まるで笑っているみたいだった。 母の声が録音のされていた旧型家庭用ロボット、アニモ。アニモとの暮らしは、まだまだ続きそうだ。
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