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1章
覚えのない荷物が届いて誤配を疑ったが、差出人の欄には父の名前が書いてあった。
父からの小包と言えば、月に一度の仕送りくらいのものだ。実家には小さな畑がいくつかあって、そこでとれた野菜や簡単に食べられるレトルト食品なんかを父がまとめて送ってきてくれる。
都内でアルバイトをしながら大学に通い、細々と一人暮らしをする俺にとってはありがたい限りだが、ひと月に二度の仕送りは今までにない。
「一体なんだってんだ?」
俺ひとりでようやく抱えられる大きさの段ボール箱を、なるべく静かに床に下ろす。ワレモノ注意のステッカーが目についたからだ。
段ボールの口を塞ぐように貼られたガムテープをベリベリと剥がせば、つるりとまあるく白いものが覗いている。
「あ、そうか、これって」
中に何が入っているか思い当たって、プチプチした緩衝材を全て取り除く。
白い樹脂でコーティングされた真ん丸の頭部に、円柱型の胴体、胴体に接着された台形の脚部、頭部に対してやたら細くずんぐりした全体に対してアンバランスな腕。家庭用ロボット『アニモ』の初期型だ。
段ボール箱にはアニモの他に半分に折りたたまれた便箋も入っていた。
「20才の誕生日おめでとう。以前から欲しいと言っていた家庭用ロボットを送ります。これで少しは自炊をするように……って、俺が欲しいのはロボットじゃなくてアンドロイドだっつうの」
正直言って、父が誕生日を覚えてくれていたのは驚きだ。堅物を絵に描いたような性格で、率先して祝い事をしたりはしない。
欲しかったのは人間に代わって家事を行う高性能なアンドロイドだったが、この際贅沢は言ってはいられない。
あの父がわざわざ送ってきてくれたのだから、一度くらいはアニモを使ってみるとしよう。
「……おかえり、タカシ」
電源を入れてすぐ流れた音声に、俺は情けなくも腰を抜かしてしまった。
「まずは着替えて、手を洗ってきなさい。それからご飯の支度ね」
アニモから流れ続けるその声は、俺が高校1年生のときに亡くした母のものだった。
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