序章  さようなら

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序章  さようなら

 ――わたしは家族なんて嫌いだ。    そう思いながら、今日もわたしは、お父さんとお母さんが喧嘩をしている声を聞く。  全く、うるさくて仕方がない。  イライラして、わたしまで叫びそうになってしまう。  うるさい。  うるさい。うるさい。  うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。  毎日まいにち、怒鳴りあって、悲鳴を上げて、ヒドいときには胸ぐらをつかみ合っている。  お父さんは、いったい何回、お母さんを殴ったのだろう?  お母さんは、いったい何回、お父さんを殴ったのだろう?  もう数えるのを止めてしまったけれど、二人の身体に残っている痣以上なのは確かだった。  わたしはもう、諦めた。  色々なことを、諦めた。  わたしには、家族なんて必要ない。  お父さんも。  お母さんも。  いらない。  必要ない。  不要な産物だ。  だけど、わたしは最後に一つだけお父さんとお母さんに言ってやりたい。  あなたたち、どうして結婚なんてしたの?  どうして、わたしなんかを生んだの?  今日こそ言ってやろうと思ったその台詞を、結局は呑み込んで、わたしはポストに入ってあった一通の手紙を握りしめていた。 『遠野愛美(とおのまなみ)様』  初めて自分宛に届いた手紙に、わたしは嬉しくて、それこそ叫びそうになるのを必死で抑え込んでいた。  その代わりに、小さな声で呟く。  お父さん、お母さん。  今までお世話になりました。  さようなら。  もちろん、リビングで喧嘩をしている両親には、聞こえなかった。
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