第一章 はじめまして

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 名前の横には、殴り書きのように『×』と書かれていたから、きっとお金を借りようして、親戚中に連絡を取っていたのだろう。  それでも、わたしにとってこのノートの存在はひとつの決断を下した。  今から思えば、無謀と言うか、突拍子な考えだったと思う。  一通り、そのノートに書かれた名前と住所、電話番号をメモして、片っ端から手紙を送った。  いきなり電話をするのはさすがにハードルが高すぎるし、文章ならば、いくらかわたしの話の内容に真剣さが伝わってきそうな気がしたからだ。  手紙の内容は、一度、両親と離れて暮らしてみたい、という内容だった。  ただし、中身は至って積極的というかポジティブというか、『高校生になったら海外にホームステイしたいので、その練習として(今から考えればこれはこれで失礼な言いかただったかもしれない)他の家で生活をしてみたい』という感じにしておいた。  もちろん、海外にホームステイしたいなんて全然これっぽっちも思っちゃあいない。 ただの理由作りだ。  わたしは、自分の家族が暮らす家から、一秒でも早く離れたかった。  だが、こんなのはたから聞けば頭の悪い話だったし……うん、何の考えもない中学生らしい、馬鹿な計画なのだろう。  しかし、一通だけ返事があった。     
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