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数日後、なんと、『近江由吉』なる人物から、手紙が届いたのだ。
しかも内容は、『それならぜひ、うちに来なさい』という了承の内容だった。
驚いた、なんてものじゃない。
やっとわたしは、解放される。
わたしには、そんな言葉がぴったりなような気がした。
『近江由吉』という人物は、ノートの名前の横に、唯一『○』という記号と、中学生から見ればおよそ想像できない大金の数字が記されてあったのを覚えている。
それから、『近江由吉』なる人物は、わたしのお父さんとお母さんに連絡をとって、わたしを預かることが正式に決定するまでの手続きも全部請け負ってくれた。
もちろん、お父さんもお母さんも、反論はなかったそうな。
それを聞いたわたしは、独り言のように「やっぱりな」と、両親に対する侮蔑を込めて呟いてやった。
あの人たちは、わたしなんて、いてもいなくても一緒なのだ。
むしろ、厄介者を引き取ってくれて、ありがたいなんて思ってたりして。
そんなやり取りがあって、結果、ほとんどわたしは何もせずに、あの家から出て行くことになったのだ。
――それなのに、結果がこの有様だ。
やはり、わたしを迎えにくる人間など、この世には存在しないらしい。
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