静かな鳥かご

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朝の穏やかな日差しが少しくたびれた木の机に柔らかい表情を写し出し、気持ちまでポカポカと温かくさせてくれる。どこかで小鳥のさえずる音とページをめくる音だけが静かに教室内に染み渡り、まるで静かな鳥かごのようだった。 校庭に植えた桜がよく見える1年2組の教室の窓側の一番後ろ。そこが私の席だった。 山本という平凡な苗字だけれど、出席番号順ではほとんどが一番後ろで、席も一番端になることが多かったから救われている、と思う。目立たないでいられるのは、まだ安らかな気分でいられる。 思わずため息が出た。なんでそんなこと考えてしまったんだろう。どうしても小説の中身が入ってこなくて、パタンとハードカバーの本を閉じて、眼鏡を外した。 ぼんやりと見える窓の外では満開の桜がキレイに堂々と咲き誇っていた。風に揺れる花びら一枚一枚が特段輝いて見える。 今日は朝からとにかくゆううつだった。正確に言うと昨日から、いや、先週の金曜日、今日名前を呼ばれることが確定してからだ。 またため息が漏れる。3時限目の英語の時間。出席番号順に英文を読まされて、いつくるか、いつくるかと内心ビクビクしていた私の番が今日なんだ。とにかく朝から逃げ出したいほど嫌だった。 一際濃いピンクの花びらが突風に巻き込まれて上空へと舞い上がる。この花びらのように風任せに飛べたらどんなにいいか、なんてありもしない空想が浮かぶ。 またまたため息が吐き出される。 ーーダメだ。何をしてても嫌な考えばかりが浮かんできてしまう。 窓の方を向いたまま机に突っ伏し、目を閉じた。昨日全然眠れなかったこともあって睡魔はすぐに襲ってきた。その心地よさに体と心を委ねていると、次第に英語の授業のことも教室にいることも消えていった。
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