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「詩音ちゃんは声小さいから入れてあげなーい」
「もっと大きな声出さないとお友だちになに言ってるかわからないよ」
「え? なに? 全然聞こえない」
「もっとハキハキ元気よく話さないと大人になったら苦労するよ」
「あーあの子? 小鳥ちゃんって」
「小鳥ちゃんってか、サイレントモードじゃね?」
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「あっ、小鳥ちゃん寝てる」
「本当にサイレントモードだな!」
「やめなよ、聞こえるよ」
……うん、そう聞こえているよ。教室のドアが開いてクラスメートが入ったときからハッとして目覚めていたけど、慌てて起き上がるのも恥ずかしくて眠ったふりを続けていた。
今さら陰口を言われたって、もう傷つくこともない。もう慣れてしまったから。それでもなぜか聴覚は鋭敏に音を聞き分けて陰口を探し出してくる。カクテルパーティー効果だとか言うらしいけど、そんなこと私には関係ない。
3人はそれぞれの席に座って登校中の話の続きを始めた。テレビの話とか雑誌の話とか、他愛もない話。それらを聞き流していると、次第に教室に人が増えていき、当たり前の挨拶が交わされ、雑談が交わされ、外の音が聞こえないくらいうる賑やかになっていく。
そこで、ようやく私は顔を上げて、すかさず黒縁眼鏡を掛けた。
教室の時計は8時25分を指し、朝のホームルームまであと5分。たいていのクラスメートは自分の席に座りチャイムが鳴るのをそれぞれの過ごし方で待っていた。私の隣、以外は。
隣の男子は入学以降まともに間に合ったことがない。だいたい5分か、10分か遅刻してくる。うらやましいくらいのマイペースさだ。
またまたまたため息が出た。もう嫌だ。本を読んで忘れよう。
チャイムが鳴るまでの数分間、私は喧騒を忘れるためにひたすら字を追っていた。
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