1話 残酷な世界

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彼女は再度その場で立ち上がると、僕を見下ろしながら問いかけてくる。 「ねぇ君、またここに来る?てか来て。強制ね。」 「は?なんで君の言うこと聞かなきゃならないのさ。」 僕は少し嫌そうな顔で彼女の発言を拒否する。すると、彼女は少し残念そうな顔をしたかと思いきや、すぐに笑顔に戻して答える。 「それは君が私の自殺を止めたからだよ。責任として毎日この時間にここに来て私の愚痴を聞くこと。」 彼女はそう言い切ると僕の制止を聞かず、そそくさと屋上の扉を開き、「また明日ね。」と言って扉の向こうに消えてしまった。 「はぁ、めんどくさい。」 僕は小さく呟くとまた上を見上げ、青い空を眺め始める。 彼女と初めて出会ってから2か月が経った。僕は彼女の言う通り、学校のある日だけいつもと同じ時間に屋上に向かい、彼女の愚痴を聞いていた。雨の日は屋上の扉の前で話したり、彼女が持ってきたトランプで遊んだりして時間を潰していた。それがいつの間にか日課になっていた。 だが、悲劇は突然やってきた。いつものように屋上に向かおうと廊下に出て、屋上につながる階段に向かうと、見慣れた顔の彼女が数人の女子に囲まれながら、空き教室に連れていかれた。彼女が数人の女子たちに連れて行かれる時、ほんの少しだけ彼女と目が合ったが、彼女の目は初めて合った時と同じ死んだ魚の目をしていた。 彼女も僕の存在に気付いたのか驚くように目を見開き、僕の目を見つめながら口をパクパクとしていた。多分「助けて」って言ってるようにも見えた。だけど、僕は何事もなかったかのように彼女を無視して屋上に向かっていった。
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