ときめきは止まりません

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「いえ、あの……なんと言うか、すみません! 変な誤解してしまって」 どうしたら良いかと思い、その場でジタバタと足踏みした。 「大丈夫ですよ。そんなに慌てなくても……。誤解されるのなんて慣れてますから。それに……」 駅前にある信号が、青になり『通りゃんせ』の曲が流れていた。 「それに、遠くからでも赤くなってバタついてる朝倉さんを見ればわかりますから。悪気があって言ったことじゃ無いって」 ーーーえっ? 私を見ればって? 歯科医院のあるビルを見上げた。ひとつの窓が開いており、白衣姿の嶋医師が見えた。 「あっ……」 「ツツジと同じくらいに赤く見えますよ。朝倉さん」 ーーーツツジと同じくらい? 相当真っ赤じゃん。 「……あの、ごめんなさい。嶋先生」 初めて、私は嶋医師を先生と呼んだ。偉く親切な医者だと認めたからだった。 「いえ、気にしてませんから。それより、気をつけて帰って下さいね。それと、詰め物が外れたら連絡して下さい」 「はい! ありがとうございます。嶋先生」 笑顔になって、嶋先生がいる方に向かい元気よく右手を振ってみせた。 ーーーなんだ。凄くいい先生じゃん。 私は親切でイケメンな歯医者に当たり、なんてついてるんだろうと、すっかり得した気持ちになっていた。
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