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「あんたねーえ、先輩に向かって何よ! その態度」
「毎日、嫌なんですよ。おんなじこと繰り返さないでくださいよ!うーっ!」
唸り声をあげるほどの二人の言い合いを同じフロアの人間は、見て見ぬ振りを決め込んで素通りしていく。
『いつものが、始まったよ』と言われるのが常だった。
そんなその他大勢の人に染まらず、頼んでも無いのに私達二人の争いに毎日絡んでくる小柄の男がいた。
「ほらほら、キミ達。毎日毎日、懲りないねー。よく飽きないよなー」
私と七恵の小競り合いの仲裁に入ってくるのは、決まって課長だった。
「馬鹿にしてるんですか! 課長。毎日毎日って! そんなに毎日してないですよ。ねえ?」
七恵に同意を求めてみる。
「そうですよ。全く課長こそ、いつもいつも私達の話に入ってきて! 盗み聞きしてんですか?」
私の隣に七恵が並び、いつの間にか課長に喧嘩の矛先が向く。
「盗み聞きって。キミ達は、どうしていつも僕を悪者にする訳なんだろう」
悲しげにいう課長を、七恵が両方の腕をさすりながら引き気味に見る。
「悪者とか……なんだか言い方がキモッ早く行きましょ。由里子先輩。この際、牛丼やでもいいですから」
「でしょう? だから、最初からそうしとけば、課長に掴まらないで済んだのに」
お互いの腕を取りながら、私は七恵と課長に背中を向けて歩いて行った。
「……なんなんだよ。全くいつもこのパターンだ」
私達の後ろで課長が呟いたけれど、聞こえない振りを決め込むことにする。
ーーー全く、課長って面倒くさいなあ。
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