昼でも夜でも構いません

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「嘘は嫌い? 朝倉さんは嘘をついたことないんだ?」 「えっ」 ーーーある。嘘ついたことが無いわけでは無い。 「キスだってバレなければしてもいいと思ってたんでしょ。俺と約束したのに」 「だって、それは!」 「朝倉さんだって嘘つきだ。お互いさまだよな」 嶋先生の顔がより近づいてきた気がしていた。 「お互いさまって……あの、嶋先生! いったい何で名刺を全ての患者さんに渡してるとか、連絡先に全ての患者さんを登録してるなんてどうでもいい嘘ついたんです?!」 「必要だったから」 「必要?」 ますます嶋先生のことがわからなくなっていた。 嶋先生が大きな掌で私の両頬を覆った。じっと、私の口元に注目している。 「な、なんです?」 「今、歯を噛み締めてたろ?」 嶋先生の指先が口角に触れた。 「開けてみて、口」 「えっ? どうして今、ここで?」 「どうしても、開けてみて」 担当の歯医者に言われたら、何か良くないことでもあるのかと思い口を開かざるおえなくなっていた。 「あーーこれで見えます?」 車内のライトを点ける嶋先生。 私の口の中を覗いてため息をついた。 「惜しいんだよな。くいしばる癖があるせいで頬の肉に歯型がついちゃってる」 口を開けたまま嶋先生を見た。 「あと、歯ぎしりのせいで犬歯がすり減ってる」 顎の肉をつまんで私の口を開かせようとする嶋先生の眼差しは真剣そのものな歯科医の顔だった。
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