告白

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「なにがダメ?」 嶋先生は、真面目に私の言葉の続きを待っている。 ーーー言いにくいな。でも、これは……どんなに嶋先生がイケメンでも嘘つきでなくても、ダメだ。 小さな声で言ってみた。 「においがダメなんです」 「えっ?」 「歯医者の独特な臭い。あれ、生理的にダメで……その申し訳ないんですが、嶋先生から歯科医院の臭いがしちゃいます」 嶋先生の口が少し開いた。先生は、指先でシャツの襟を引っ張って鼻を近づけて臭いを嗅いだ。 明らかに気まずい空気が車の中に流れていた。 嶋先生は何も言わずに窓を少し開けた。その横顔は切なそうで、思わず胸がいたんだ。 ーーー私、ひどいこと言ったかも。 生肉や生魚の臭いが苦手な人もいるように、私は歯科医院の臭いが苦手なのだ。 割合、他の人に比べたら歯に関しては細心の注意を払っている方の人間だと思う。 歯磨きは、鏡に向かって朝、夜10分くらいしているし。昼は、会社だから手をあまり時間がかけられない。 歯と歯の間磨きには、デンタルフロスをかかした事は無い。糸ようじではなく、フロスだ。こだわっている点でもある。 左右の指を使い鏡の前で歯と歯の間にフロスを入れるのは、結構大変で慣れないうちは無駄に大口を開けていたものだ。 それも今では、口角が切れるほど大口を開けなくてもフロスを全ての歯の間に入れられる。 ここまで徹底していたのに、虫歯が出来た時は、かなりショックで言葉も出ない。 虫歯を治すことに恐怖感がある訳でも無い。ただ、歯科医院の独特な消毒や薬品の臭いが苦手なのだ。
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