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剣を血糊を払うように振った後、地面につき刺した孝也は静かに言い放つ。
刹那、白雷に包まれていたモンスターの肉体が両断され、絶叫を上げることなく、真っ白な粒子となって消滅していく。
孝也はゆっくりと巨体で振り返る。内部にいたクレアはくたくたになりながら、シートにもたれかかった。
空を覆っていた黒い雲はいつの間にか消え失せ、再び蒼天が広がっていた。
「これが……勇者様の力」
クレアの呟きは、孝也には聞こえなかった。
ただ、一つ確かなのは、この日、この瞬間。世界を救う勇者が復活したという事実である。
勇者の力を扱う御使いたる少女はその事実に浸りながら、押し寄せてくる疲れに意識を委ね、深い眠りに落ちた。
「眠ったのか?」
その様子を感じ取った孝也は安堵を漏らす。
本当は、今すぐにでもこの場所から立ち去りたいのだが、それは出来なかった。
なぜならば、孝也は己の肉体を己の意思で動かすことはできない。クレアの操縦がなければ、指の一本も動かせないのだから。
でも、今は、この幼い少女の眠りを妨げる必要はない。
「ゆっくりと休んでくれ、クレア……」
孝也はコクピット内部の照明を落とし、通信を遮断した。
「さぁて、厄介な事になっちまったなぁ」
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