プロローグ あいつこそ最強無敵の勇者

6/7
前へ
/252ページ
次へ
 剣を血糊を払うように振った後、地面につき刺した孝也は静かに言い放つ。  刹那、白雷に包まれていたモンスターの肉体が両断され、絶叫を上げることなく、真っ白な粒子となって消滅していく。  孝也はゆっくりと巨体で振り返る。内部にいたクレアはくたくたになりながら、シートにもたれかかった。  空を覆っていた黒い雲はいつの間にか消え失せ、再び蒼天が広がっていた。 「これが……勇者様の力」  クレアの呟きは、孝也には聞こえなかった。  ただ、一つ確かなのは、この日、この瞬間。世界を救う勇者が復活したという事実である。  勇者の力を扱う御使いたる少女はその事実に浸りながら、押し寄せてくる疲れに意識を委ね、深い眠りに落ちた。 「眠ったのか?」  その様子を感じ取った孝也は安堵を漏らす。  本当は、今すぐにでもこの場所から立ち去りたいのだが、それは出来なかった。  なぜならば、孝也は己の肉体を己の意思で動かすことはできない。クレアの操縦がなければ、指の一本も動かせないのだから。  でも、今は、この幼い少女の眠りを妨げる必要はない。 「ゆっくりと休んでくれ、クレア……」  孝也はコクピット内部の照明を落とし、通信を遮断した。 「さぁて、厄介な事になっちまったなぁ」     
/252ページ

最初のコメントを投稿しよう!

180人が本棚に入れています
本棚に追加