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そんな恐怖に駆られた孝也であったが、不意に聞こえてきた声に、思わず耳を傾けた。
「勇者様、私たちを助けてください」
「……!」
その声は幼い少女のものだった。
孝也は思わず、真下をみた。先ほど、自分の声に驚いたであろう少女が花を握りしめ、祈るようにして、その言葉を繰り返していた。他の少女たちは泣き叫び、恐怖に怯えた姿でいる中、その少女だけは自分に向かって祈りを捧げていた。
「……勇者」
勇者。確か、真っ白な空間にいた時、自分は勇者として選ばれたと言われたことを思い出す。世界を救う勇者として、呼び出されたのだと。
「お願いします、勇者様……!」
少女は今なお、祈り続けていた。
いや、よく見れば、少女は震えていた。それは当然だと孝也は感じた。怖くないわけがない。この女の子だって怖いのだ。だからこそ、彼女は世界を救う勇者に祈りを捧げている。
そして、自分は、その勇者だったらしいのだ。あの空間でのやり取りが嘘でないなら、自分はあの巨大なモンスターと戦う必要があるはずなのだ。
しかし、動けない。いくら、身じろぎしても、この機械の体は動いてはくれない。
「き、きたぞ!」
住民の絶望に染まった悲鳴で、孝也は我に返った。
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