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勇者リーンはそう言って、フッと笑った。鉄の顔が、その時だけは優しく、柔らかな微笑みを向けてくれた。
同じくして、勇者の背後からもう一つの声が響いた。それは、街を襲っていた怪物の狂ったような、恐ろしい叫び声ではない。天高く轟き、全てを切り裂くような勇ましい鳴き声。
「わぁ!」
勇者の背後から、巨大な影が羽ばたいた。甲高い鳴き声と共に姿を現したのは鉄の体を持った巨大な獣。勇猛なる獅子の体、鮮烈なる鷲の顔、そして翼を羽ばたかせたそれは、伝説に語られる最高神の使者『グリフォン』であった。
鉄の体を持ったグリフォンは雄叫びと共に動き出そうとしていた化け物を抑え込む。
勇者と聖獣。今、クレアの目の前で呼び起こされた二つの奇跡は、確かに、迫りくる害意を打ち払おうとしていた。
「勇者様が……目覚めた?」
同時に、その真実はクレアに一つの答えを突きつける。
「私が、御使い?」
クレアの呟きは、グリフォンの唸り声によってかき消された。
茫然とする少女を頭上を飛び越え、勇者リーン・孝也が飛び出していく。
「ど、どうしよう」
クレアはそれを見つめながら、もう一度、呟いた。
「私、御使いになっちゃった……」
確かなのは、クレアにしてみれば、それは思いもよらないものだという事だった。
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