静かなる死神

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さほど都会でも田舎でもないありきたりな街でそれは突然起こった。 通勤ラッシュが重なりギュウギュウに詰め込まれた電車の中で中年の男性が咳払いをする。 向い合うように立つ乗客は眉間に皺を寄せ いかにも嫌そうな顔を露骨にしてみせた。 「ごほっ げほっげほっ!」 しかし 男性の咳は止まる事無く、激しさを増していく。 咳をするたびに飛び散っているであろう菌に、病気がうつりたくないと男性の周りには少しずつだが隙間があいていった。 「げほっげほっげほっ ヒューヒューげほごほごほ!!」 男性を心配する声が、あからさまに嫌味を言う声が、何事かと興味津々に人混みをかき分ける野次馬で車両は騒然としていた。 呼吸がままならなくなった男性は胸元を押さえながら膝から崩れ落ちるように倒れた。 多くの人が撮影する動画には大量の悲鳴とパニックになり男性の側から一刻も早く遠くに逃げ出そうとする人たちで手が付けられないほどの混乱が映し出されていく。
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