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どう見ても、ただの壺だった。
玄関の前にででん、と置かれた薄青の陶器。咬みつかんばかりに立ったまま見下ろして……ようやく、バカさ加減に気が付いた。
ただの壺。当然だ。でなければ、一体なんだというのだろう。いい加減、自分はあいつらに毒されている……と忌々しくなりながら、悠樹はつめていた息を吐き出した。
普通、物は物だ。動かないし、しゃべらない。そこに壺が置いてあったら、誰か人間が置きに来たか、捨てに来たかと考えるのが一般的だろう。
だがいかんせん、悠樹の周囲にある物がモノだけに、とっさに頭に浮かんだのは、一体どこから動いて――または歩いて――来たか、だった。
いや、まったく毒されている。
「おい、家に入らんのか?」
その最たる元凶――赤牛が、へたばった様子で鞄から顔をのぞかせた。ただの人形のくせに、具合が悪くなるらしい。
「入るけど……あんた、コレ、何だと思う?」
堂々と入り口をふさぐ、一抱えほどの入れ物を指すと、赤牛はやれやれと言わんばかりの億劫そうな口を開いた。
「壺じゃろ」
「そこは訊いてない」
間髪入れずにたたっ斬る。突っ込まれた方は、さらにげんなりしていた。
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