普通じゃない私たちへ

32/35
前へ
/182ページ
次へ
「聞かないのか?」 少しばかりの沈黙の後、獅々友が口を開いた。 「何をかしら?」と薬袋。 「どうして、徳山先生を毒殺したのか」 警官が何人か急いでロビーを駆けていく。事件があったのだろうか、その後でパトカーのサイレンの音が鳴り、何台か出動していった。遠くになっていくサイレンの音が、薬袋と獅々友に静寂の存在を感じさせた。 「興味ないわ。私には関係ないもの」 「宇納さんが関わっていたが、それでも関係ない?」 そう獅々友が言うと、薬袋は獅々友を睨んでしばらく黙ってから、呆れたように息を吐く。 「そんなにペラペラ話していいわけ? 刑事として問題じゃないかしら?」 「今回は未知子さんのおかげで事件解決したようなものだろ。だから、特別に情報提供をと思って」 そんなことを言って笑って誤魔化す獅々友に、薬袋も釣られて笑ってしまう。それで、薬袋は降参して、両手を軽く上げた。 「推測するけど、それって、宇納が徳山先生から厳しい指導をされていて、それから宇納を守るために風村くんが先生を毒殺した。神楽も宇納のことが好きだったから、風村くんと同様に先生を毒殺することを企てていた。 それを知った風村くんは神楽の計画を利用しようとして、匿名の通報で神楽を現行犯逮捕に追いやった後、神楽の実験ノートの罠に引っかかってしまった。とか、じゃないでしょうね?」 「あ、ああ、だいだいそんなところだ」と獅々友は少し驚いて答える。「ただ、神楽が本当に毒殺するつもりで猫をして実験動物にいたのかは不明。他の可能性として、今回の猫焼きで風村くんの犯行を誘発する目的があったとも考えられる」 「なんとなくだけど」と薬袋は珍しく自信なさげに前置きをする。「高校時代に、神楽が猫焼きの事件を発覚させたんじゃないかしら? その前提で考えていくと、化学部の闇実験を神楽は邪魔したことになる。そして、今回の事件は神楽の闇実験を邪魔するために風村くんが……考え過ぎね」 「その辺りは、今後の取り調べでじっくり掘り下げていくよ」 「お願いするわ」
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

386人が本棚に入れています
本棚に追加