古民家レストラン

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「これでも、化学者の端くれなの」 「これは失礼しました。別にあなたを試そうとしたわけじゃないんです」 薬袋の不機嫌を察し、獅々友は少し焦って弁明する。しかし、薬袋は止まらなかった。 「言葉を選べない刑事が平然と活躍できるなんて、プロ意識が低い組織ね、警察って」 「そこまで言いますか……」 「そこまで言われると思って、仕事に打ち込んでないから、事件の真相に辿り着かないんでしょう?」 「わかりました! この通り、非礼をお詫びします!」 獅々友は机に額を当てて、頭を下げた。それに対し、薬袋は思わず口を閉ざす。 薬袋は戸惑いを感じていた。いつも通りの供述をして、早くこの取り調べを終えようと思っていた。なのに、どうしてか、この男の前だと調子が狂ってしまう。まさか、化学者としてのプライドを突かれて、こうも簡単に反抗的な態度を出してしまうなんて思ってもみなかった。薬袋は自分自身に驚くばかりだった。それに、薬袋の態度に獅々友は大人の対応を取った。そんな状況に薬袋はただただ恥ずかしくなる。 「その、時園さんは……」と薬袋は恥ずかしさのあまり話を戻した。「病院に運ばれたのでしょう? 医者に診てもらえたのなら、大丈夫なんじゃないかしら」 獅々友は驚いて顔を上げた。薬袋が話を続けようとするとは、想定していなかったようだ。その表情を、薬袋は何とか平然と眺める。毅然とした態度を保たなければならない。薬袋はこれ以上、反抗的な態度を取って不利な状況を作りたくはなかった。 「はい、そのはずだったんですが……」 獅々友は薬袋の疑問に対して、言葉を濁す。それから、獅々友は本題を話し始めた。
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