古民家レストラン

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薬袋は斜め下に視線を向けて、未だ沈黙を守っていた。 獅々友は乾いた喉を潤そうと、唾を飲み込む。その音が思った以上に大きく聞こえた。 「獅々友刑事」と薬袋は抑揚のない声で言った。 解答解説が始まる。獅々友は、薬袋の目を見た。まだ、その瞳からは合否はわからない。 「はい」 獅々友は返事した。その瞬間、駄目なのではないかという思考に(とら)われる。一夜限りで考えた結論が、果たしてちゃんとした論理を持ち合わせているのか。あの厳しい視線は、自分の浅はかさを非難していたのではないか。化学の化も知らない野郎が、プロに物申す時点で自惚れもいいところなのではないか……。 獅々友は、薬袋の口を塞ぎ、正解を聞くのを先延ばしにしたかった。しかし、もう遅い。言ってから、やっぱりなしにしてくださいなどとも性格上言えなかった。 そして、薬袋は言う。取るに足らないと指摘するようにも感じられる淡々とした口調で。 「そんなの尿路結石ができるから、当たり前でしょう?」 バタンと、どこかで扉が閉まる音がした。 獅々友はしばらく理解が追いつかなかった。今、何を言っているんだ? そう口にしようとして、ようやくその意味を理解する。 「あ……」 その間抜けた声が出た。そして、獅々友は徹夜までした自分の努力が空回りしたと恥ずかしくなった。薬袋はその獅々友の様子を見て、ため息をつく。
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