接触

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そこで、薬袋はようやくペペロンチーノを食べ始める。少し冷えたかもしれない。獅々友はそう考えて、少し話し過ぎたなと反省した。その一方で、薬袋がイメージに反してよく喋ることに驚いた。化学の話になると、澄ました顔はしているものの、本当に楽しそうに見えた。獅々友は少し頬をほころばせる。 「何?」 薬袋は獅々友の微笑みに怪訝(けげん)な顔をする。 「いえ、薬袋さんが楽しそうにしているので、つい」 「そう」 薬袋は短くそう返事して、何もなかったようにペペロンチーノを食べる。判断はできないが、その態度が照れ隠しなら案外可愛いところがあるなと獅々友は思う。 そして、獅々友は周囲を見る。古民家レストランは、がら空きだった。無理もない。誰しもシュウ酸カルシウムで病院送りにされたくはないだろう。まだ営業ができているだけましかもしれない。シュウ酸カルシウムでは営業停止にはならないのだ。食中毒でなければ、お店は営業できる。だからといって、営業していいというのは、何か違うんじゃないのかと獅々友は言いたくもなった。 もうここには来ないだろう。居心地はいい方だから、もったいない気もしないでもないが、知り合いを病院送りにした事実はやはり耐え難い。 食事が終わり、食器が下げられる。食器を持っていく店員ともう一人の店員がすれ違った。そのもう一人の店員、風村慎太郎は薬袋たちの前で立ち止まる。
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