接触

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「薬袋……」 風村は戸惑いながらも声をかけてきた。しかし、薬袋は風村の方を向かず、無視するようにお手拭きで手を拭いている。 「その……こういうとき、どう言ったらいいのかわからないけど、帰ってきてくれてよかった」 「そうね」と薬袋は淡泊に答える。獅々友は黙って成り行きを見守っている。 「はは、薬袋は相変わらずだな」 ぎこちない笑い方だった。風村は今、極端に気を遣っている。そう獅々友は感じた。 それから風村は獅々友の方を見て、少しばかり固まる。 「えっと……初めまして……でしたか?」 「いえ、何度か取調べでお会いしていますよ」 「あ、あのときの刑事さん……」 風村はより一層緊張した面持ちになる。そういえば、取調べのときもこんな調子だったか。 「ここではあれなので、終わったら少しお話させていただけませんか? すぐ終わりますので」 「えっと、確か……」と風村は時計の方を見る。「二時に終わりますので、その後でもいいですか?」 「かまいませんよ。薬袋さんは?」 「かまわないわ」 仏頂面のまま、薬袋は答えた。
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