接触

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「では、さっそくお話を伺わせてもらいますが……」 「ちょ、ちょっと待ってください」 そう風村は急に獅々友の質問を止めた。突然どうしたんだと獅々友は(いぶか)しげに眉をひそめる。 「その前に、状況を話してください。薬袋さんがここにいるということは、釈放されたということですか?」 「ああ、そうでしたね。まだ、彼女が不起訴処分になったということには(おおやけ)にはされていませんでしたね。すみません」 「不起訴処分……」と風村は薬袋の方を見て、反芻(はんすう)するように呟いた。「ということは、今日ここに呼び出されたのは、僕が疑われて……」 「いえ、今回の訪問の目的は重要参考人への事情聴取ですよ。風村さんが犯人だと疑っているわけではありません」 「重要参考人……」と風村はまた呟く。その言葉に引っ掛かりを感じている様子だった。 「でも、それってもう疑われているのと同じなんじゃないですか?」 「そうじゃないですよ、風村さん。これは真犯人を捕まえるための情報収集の一環なんです。貴方(あなた)を疑っているわけではありません。だから、どうか安心してください」 獅々友は風村の目を見て言う。それは刑事の風格というものなのか、獅々友の真剣な眼差しは風村に有無を言わせない力があった。迫力というわけでもない。ただ、それで風村が戸惑いから我に返り、大人しくなった。 「……すみません、取り乱してしまって」 「いえ、事件関係者はどうしても気疲れが溜まって、冷静ではいられないものです。気になさらないでください」 獅々友は優しく微笑みかけて、場を収めた。
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