接触

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突然だったので、獅々友も風村も一瞬動作が止まる。 「あれから、確かに宇納とは何度も二人で会ったよ」と風村は目撃証言を認める。「でも、一度殺されかけたんだ。お互い不安を打ち明けていかないとしんどかったんだ」 どうしようもない。そうなるのは自然なことだった。そう風村は訴えた。 「最初に誘ったのはどっちかしら? まあ、宇納のような気がするけど」 「そう……だな、たしか、初めは宇納から誘ってきたと思う」 「そう」 薬袋は短く相槌を打って、腕を組んだまま宙を眺める。宙に何かを描いているのだろう。そう獅々友は思いながら、コーヒーに砂糖を三つ入れていく。 「それでも、お互い交際しているつもりはないよ。というか、この状況で交際するなんて正気じゃない」 風村は薬袋に訴えかける。それに対して、薬袋は特に反応を示すことはなかった。その代わり、また質問をする。 「それで、もう少し二人でいたときのことを詳しく知りたいのだけど、かまわないかしら?」 「かまわないよ」 そして、風村は二人でいたときのことを話した。多くは宇納が電話してきて、それから二人で会うこと。落ち込む気分を変えるために遊園地に一緒に行ったこと。一度、体調を崩して、宇納が介抱してくれたこと。宇納が飼っていたインコが死んでしまって、一緒にお墓を作ったこと。宇納が風村のために料理を振舞ったこと。聞いている限り、それは完全に交際しているカップルそのものだった。 「そういえば……」 風村は薬袋の質問に答えた後、そのように続ける。薬袋と獅々友は彼に注目する。マスターも先客の人も風村に対して耳を澄ましているように感じる。緊張した沈黙が店内を支配していた。 「関係ないかもしれませんが、最近変わったことがありました」 それは、とても残虐な事件の一端の目撃証言だった。
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