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「まず、風村くんと会っている状況で、飲み物を飲もうとは思わないわ。毒を盛られた記憶があるのよ。飲めるわけがない」
「なるほど」
「それに、あの喫茶店、なんだか嫌な予感が働いたのよ。獅々友刑事が知っているお店で、マスターと先客の二人がいて、もしマスターと先客が獅々友刑事と協力関係があれば、私と風村くんは不利な状況にある可能性が出てくる。だから、私は警戒していたの」
「そこまで考えていたんですか」
「ええ。もちろん、邪推とは思うけれど」
「いえ、鋭いですよ。当たってます」と獅々友はあっさりと認める。「もし、風村さんが何か変な行動を取ろうとすれば、あの新聞を開いていた人が取り押さえるつもりでした。マスターは元警官で、いつも事情聴取でお店を使わせてもらっているんですよ」
「あら、それは恐いこと……ということは、つまり私をハメたのかしら」
「いや、とんでもない」と獅々友はすぐさま否定する。「自分は薬袋さんをハメるつもりなんて……」
「冗談よ」と薬袋は澄ました顔をした。
「いや、冗談には聞こえないですよ」と獅々友は苦笑いした。
そんな二人を、時園は微笑ましい眼差しで見守っていた。流れるような旋律を奏でるピアノ曲はどこかしら詩的な趣があって、奏者の少女は優しい指使いでそれを弾いていた。さきほどのバリスタ風の男性がカフェオレとミルクコーヒーを持ってくる。心地よい淹れたての香りが三人の肺を満たす。時間帯は夕方に差し掛かる。
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