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「一度、お会いしてお礼したかったんです」
時園は今回、薬袋と話をする機会を設けた理由を述べた。薬袋は相変わらずの仏頂面で「そう」と一言相槌をするだけだった。それを獅々友は笑った。
「薬袋さんは照れているんですよ、時園さん」
「獅々友刑事」と薬袋は咎めるように言う。
「薬袋さん、ツンデレなんですね」
時園がとどめの一言を放ち、薬袋は落胆するようにため息をついた。獅々友と時園はそれを見て、二人で笑い合う。
「笑うのはいいけど、私のしたあの説明には一つ重要な問題があるのよ」
「え、どういうことですか?」と時園は急に不安げな表情になる。
「薬袋さん、それは冗談にしては……」
「冗談ではないわ」と薬袋はかぶりを振る。「獅々友刑事、私の説明を鵜呑みにして、何も考えていないのね」
「……それは、なかなか辛辣なコメントですね」
「どんな説明もまず懐疑的に聞かないと、本当に理解したとは言わないわ。何度も言っているじゃない。化学的視点で考えて、と」
「すみません」と獅々友は反省して頭を下げる。
「それで」と時園。「いったい何なんですか、その重要な問題というのは?」
「溶ける速さよ」
薬袋は端的に答えた。
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