接触

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「ええ。この通りコーヒーは飲めるようになるくらいには、痛みはましになりました」 「ああ、そうね。最初の頃の飲むことすら厳しい状況から、改善しているわね。なら、案外溶けるのは早いかもしれないわね」 「それはつまり、この痛みはすぐにましになるということですか?」と時園は希望を感じた瞳で薬袋を見る。 「すぐかはわからないけど、そうね、寿命までゆっくりと溶け続けるという最悪のケースはなくなったと思うわ」 「よかった」と時園は改めて安堵する。「あとは、どのくらいで痛みがなくなるかが問題ですね」 「ええ、なので、また時間が経ったら、お会いしましょう。それで、痛みの減少具合を見れば、回復の目途を立てられると思うわ」 「ありがとうございます!」 「いえ、大したことはしてないわ。思ったことを言っているだけだもの」 薬袋は照れ隠しなのかしれっとした顔でカフェオレを口に運ぶ。その姿を見て、時園は微笑みを浮かべた。獅々友はまだ薬袋に指摘されたことが効いているのか、様子を伺うように黙っていた。 ちょうど、幻想即興曲は穏やかな旋律を奏で、まどろむような雰囲気を醸し出している。しかし、その柔らかな旋律は間延びしていき、また……雷鳴が訪れる。 「そういえば」と時園は雷鳴で思い起こされたようなタイミングで言った。「私、目撃しちゃったんです、最近ニュースになっている事件」 「事件?」と薬袋は首を傾げ、獅々友の方を見る。 「えっと、それはあの事件のことか、猫の?」と獅々友は薬袋の疑問に対する返答も含めて、時園に聞く。そして、時園は風村と同じことを口にする。 「ええ、それです。猫が燃えていたんです」
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