バーンキャット

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入ってすぐにキッチン兼廊下のスペースがあり、奥は七畳半ほどの日当たりの良い空間が広がっているワンルーム。 薬袋は部屋の電気をつけ、蛍光灯が一瞬ためらうように明滅したのちに点灯する。薬袋はその明るさに目を細めた。広さを感じやすくするためにベッドを手前にテレビやローテーブルは奥に配置した空間は、半月くらい留守にしていただけなのにどこか久しい気持ちになる。やっと落ち着ける。薬袋はベッドに身体を投げ出し、顔を柔らかな掛け布団に(うず)める。疲労がここにきて、存在感を増していた。このまま、眠ってしまいたかった。しかし、それではいけないと思考を安寧の泥の中から引っ張り出す。 ここで、事件が起きた。 薬袋は身体の力を振り絞って起き上がり、ベッドに腰掛ける。今まで住んできた日常の光景。本当に事件があったのだろうかと変に不安になる。しかし、実際に青酸カリがカレーに混入され、薬袋と風村、宇納はそれを食べたのだ。そのとき、薬袋だけは中毒症状が現れず、薬袋のバッグから青酸カリを入れた(びん)が見つかった。当然、警察は薬袋を犯人とし、逮捕した。もちろん、薬袋は青酸カリの瓶など知らない。仕込まれたのだ。問題は、犯人を特定するには証拠が足りないことだった。 薬袋は考える。 青酸カリは薬袋が所属する研究室のものだった。しかし、誰が持ち出したのかは不明。それをいつどこで薬袋のバッグに入れたのかも不明。青酸カリがあれば犯行は可能だったにも関わらず、わざわざ青酸カリの瓶まで持ち出したのは、薬袋に濡れ衣を着せるためだろうと推測する。 あとは、なぜ薬袋に濡れ衣を着せたのかという疑問。まず、考えられるのは、風村と宇納が付き合ったという事実から、薬袋が邪魔だったからだと推測。そうなると、宇納が犯人としての動機を持っていると考えられるが、そんなことのためにわざわざこんな事件を起こすのは妙に感じられる。他に動機が? それとも宇納ではなく、風村が犯人だと辻褄が合う何かがあるのか? 薬袋はそこまで考えて、ため息を吐く。証拠が足りない。どうしたものかと思案しようとする。そこで……。 スマホのバイブレーションが鳴った。 このタイミング、状況から考えて、薬袋はスマホの画面を見るなり、やはりと思った。 それは、犯人かもしれないとついさっき疑ったばかりの宇納からのメッセージだった。
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