バーンキャット

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薬袋は送信ボタンを押そうした指を止め、さっき打った文字を消していく。三人とも、口を揃えて言う事件。単なる偶然なのだろうか? 薬袋は妙に意識してしまう。 『ええ、ひどい事件ね。早く犯人が捕まるといいのだけど』 『そうだよね。燃えたまま、鳴き叫んで走っていくんだって。そして、燃え尽きて死んじゃうらしいよ』 『悪趣味ね』と薬袋は返信しながら、宇納の思惑を推し量る。しかし、薬袋はその思惑を看破することはできない。どういうつもりなのか。それとも、ただ世間話のつもりなのか。 すると、宇納は薬袋の疑念を感じ取ったのか、妙な間が空いた後にメッセージが帰ってきた。 『そう、悪趣味! だから、猫ちゃんたちのためにも、私たちで犯人捕まえない?』 え? と、薬袋は一瞬その文面の意味を理解できなかった。そして、そこからさらに他にもっと解決するべき事件があるじゃないと思った。そんな薬袋の反論を予期してか、宇納は追い打ちをかけるようにメッセージを送ってくる。 『お願い! 私、こういうのほっとけないの!』 『そういうのほっとけないなんて、初めて聞いたわ』と、ため息交じりに薬袋はメッセージを打っていく。『そういうのは刑事さんに任せて、いったん落ち着いて考えたらどうかしら?』 しばらく間が空く。薬袋は宇納のよくわからない言動には慣れていたが、今回のお願いは本当によくわからなかった。 そして、薬袋のスマホがバイブレーションする。 『そうだよね……。刑事さんに任せた方がいいよね。ごめん、なんか変なテンションになってるんだと思う。みっちーの言う通り、ちょっと落ち着いてみる』 ホッと薬袋は安心する。もしかすると、薬袋の不起訴処分で宇納は混乱しているのかもしれない。犯人であろうが、なかろうが。 『いい子ね。じゃあ、そろそろおやすみの時間かしら』 『うん。そうだね。じゃあ、また明日。おやすみー』 時刻は八時に差し掛かろうとしていた。スマホの画面が暗くなっても、薬袋はじっとその画面を眺めていた。思考が空回りする。意図は読めず、妙な余韻だけが静寂の中に残っていた。冷蔵庫の稼働音がやたらに耳に()り付いていた。
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