バーンキャット

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しばらくの起動時間に、薬袋はデスクの前の窓から望める七階からの景色を見る。朝日を浴びて、活動を始めようとする気配が眼下に広がる住宅街から感じられる。大学近くを通る自動車道はすでに多くの車が急ぎ早で勤務先に向かっているようだった。 思った以上に起動するまでに時間がかかる様子だったので、薬袋は気晴らしにデスクから立った。研究室のアクリル板には、油性ペンで化学式や構造式、有機化合物の反応機構、三田先輩の仕業だろう勘違いした意識高い落書きなどが自由に書かれていた。時間があるから、必要なさそうなものはエタノールで拭き取ろうかしら。そんなことを考えているうちに、ようやくパソコンが起動した。 薬袋はデスクに着き、パソコンで条件検討に使えそうな論文を探し始める。その際、薬袋は音楽を聴きながらやるため、一度動画サイトを開く。いつもなら、お気に入りの音楽が履歴によってサイトが自動的におすすめとしてトップページに出てくるのだが、薬袋はそこで手を止めた。 『猫が焼かれる動画』 不謹慎極まりないその動画は、たぶん少しすれば削除されるだろう。薬袋は確かに不快に思い、その動画を無視して音楽を聴こうと思った。しかし、やはり気になって、とうとう薬袋はその動画をクリックした。 それは、猫が檻に入れられて、外からガスバーナーで焼かれる酷い動画だった。
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