バーンキャット

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「薬袋さん、来てたんですね」 動画を見ていて、ふと背後から声をかけられた。薬袋は思わず動画を消して、立ち上がった。そこには、高身長イケメンと表現するのが的を射ている男性が立っていた。冷静で焦ったところを見たことがない彼の声は低く、それによってさらに落ち着いた大人の男性を(かも)し出している。 「皆谷先生、おはようございます」 「ああ、おはよう。珍しいですね、薬袋さんがここで動画を見ているなんて」 「すみません。少し気になったものですから」 「いえ、別に責めるつもりはないですよ。まだ、コアタイムじゃないんですから」 教授なら、そんなことをする暇があれば、実験しろと言われかねないけど、皆谷助教はあえて言わないのね。 「いえ、気が緩んでいました。すぐに実験に取り掛かります」 「そう慌てることはないよ」と皆谷助教は苦笑する。「それにその前に、僕の要件を聞いてくれるかな」 「そう……でしたね。すみません、ご指摘の通り、慌てていたようです」 「いつもはしないことを見られて、動揺しているのですね」 薬袋はそう言われて、思わず俯く。この人はさらっと人の恥ずかしいところを突いてくるから苦手だ。 「冗談ですよ」と皆谷助教は紳士スマイルでさっきの発言をなかったことにする。「では、僕の居室の方でコーヒーでも飲みながら話しましょうか」 薬袋はずっと皆谷助教のペースに飲み込まれたまま、彼の提案通り彼の部屋に向かった。
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