バーンキャット

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准教授と助教、秘書の居室。そういうと大層に聞こえるが、蓋を開けてみると質素なものだ。7畳くらいの部屋に四つのデスクとコーヒーの準備や簡単な調理ができる小さなキッチンスペースがあるという具合で、学生の居室と比べて実験台が隣接していないという点を除いて大して変わらない場所だった。 薬袋は皆谷助教に勧められるまま椅子に座り、それから向かい合うように彼も自分の椅子に座る。彼のデスクは整理整頓が行き届き、デスク上に設けられた本棚は化学に関する参考書や学会の予稿集などがコレクションのように綺麗に並べられている。これでも、参考書の数は全然少ないよと以前、彼が言っていたのを薬袋は思い出す。 「まず、不起訴処分で帰ってこれてよかった」 そう切り出した皆谷助教に薬袋は疑問が生まれる。 「そう言ってもらえるのは嬉しいですが、どうして私が不起訴処分になったことを知っているのですか?」 「獅々友刑事ですよ」 「え……と、どうして獅々友刑事がわざわざ皆谷助教にそのことを伝えるんですか?」 「薬袋さんの不起訴処分などがわかったら伝えてほしいとお願いしたんですよ」 ああなるほど、薬袋は理解した。つまり、問題を起こした学生への対応をすぐできるように、結果を伝えてほしいと獅々友刑事に言っていたわけだ。
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