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「それにしても、悪趣味な動画を見ていたね」と、皆谷助教。
薬袋は一瞬、何のことかわからず、彼の顔を見る。そして、ハッとする。
「ああ、あれは、その、最近起きている事件で気になって……」
「また、動揺している」
薬袋は言葉を詰まらせ、降参するように微笑する。
「皆谷助教は、本当にお人が悪いですね」
「君があんなにのめり込むほど動画を見ていては、誰しもそうコメントするでしょう?」
そう言われて、また薬袋は返答に窮する。
「まあ、いじめるのはここまでにして」
「本当にお人が悪いですね」
避難がましくそういう薬袋に、皆谷助教は満足そうに笑みを浮かべる。それで、薬袋は諦めてため息を吐きだす。
「猫焼きの事件、僕も少々興味がありましてね。この近辺で起きている事件ですし、他人事にできませんし、それに……」
そこで、皆谷助教は若干言葉を濁す。少し演出しているように感じられる。
「犯人は何を思って、そんなことをしているのだろうかって不謹慎ながら興味があります」
「はあ」と薬袋。「どうせ、ただの虐待快楽主義ではないですか?」
「確かに、その可能性が大きいですね。でも、他の可能性だってある」
シュレディンガーの猫箱を薬袋は想起する。猫を外からは観測できない箱の中に入れ、半分の確率で毒ガスを充満させて猫を死なせるという実験。結果が観測できない状況に置いては、箱の中の猫は生きている状況と死んでいる状況が重なって存在していると説明する有名な話。
そして、薬袋は嫌な予感がした。皆谷助教が世間話をすると、面倒なことになるという予感が。
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