バーンキャット

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「例えば、猫焼きは十八世紀以前のヨーロッパで厄除けと娯楽を兼ねて行われていた催しだったことは知っているかな?」 「いいえ、初耳です」と返答して、薬袋はああやっぱり来たかと思う。 「さらに、その開催時期もヨーロッパの五月祭や夏至の祭りの聖ヨハネの日の前夜祭。つまり、今の時期に相当している。それは単なる偶然なのかな。そう考えると、少しばかり興味そそられる」 推測に推測を重ねる口調が弾んでいる。皆谷助教のスイッチが入ってしまったと、薬袋は内心呆れかえっていた。 「猫は悪魔の象徴として、焼かれていたんだ。もしかすれば、今回の事件は犯人にとっての悪魔(ばら)いなのかもしれない。なら、その悪魔とは何か、犯人をそうさせるまでに至らしめる元凶は何か、考えたくなる」 さて、どうやって水を差そうかしら。薬袋は妄想に悦が入る残念イケメン助教の隙を伺う。 「ところで、この猫焼きの歴史が面白いと感じるのは、デカルト哲学が関係していると考えられている点なんだ。なぜかって、デカルト哲学では人間以外の動物は霊魂を持たないから、痛みとか感じないという考え方をしていてね。当時の多くの人たちが猫を燃やしても罪悪感をもってなかったというのが、実に興味深い。その時代の思想が人間に想像力の制限を与えている素晴らしい例だと僕は思うんだ。つまり、動物に対して持っているはずの思いやりが封じられてしまった残酷な歴史だと思うんだ」 さらに、助教はエスカレートする。薬袋はイライラし始める。
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