バーンキャット

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「『仮にある動物が、自動人形ではなく、人間のように本能ではなく精神によって行動するのなら、狩りの功績を仲間に伝えるよりももっと切実なことを伝えるだろう。例えばこんなふうに……痛いよ、この縄をかみ切ってくれないか。ぼくには手が届かないんだ』」 「え、ええ、そうだね。もし人間と同じなら、縄をかみ切ってくれるはずだろう。でも、実際は違うというパスカルの鋭い指摘だ」 戸惑いながらも、皆谷助教は薬袋の話に同調する。それに対して、薬袋は微笑む。 「でも、それでしたら、最近の話、心臓病を患っていた飼い主が散歩中その病に倒れて、近くの人に助けを求めた犬は人間さながらだと思うのですが、どうでしょう? 人間が昔、そうではなかったのと同じように、動物も昔とは違うことだってありうるという素晴らしい例だと、私は認めています。動物もただの自動人形から進化して、精神を獲得していると考えて何か問題があるのでしょうか?」 その薬袋の反論に対して、皆谷助教は返す言葉がない様子だった。 「もし犯人が」と薬袋は続ける。「皆谷助教の想像通りの意図を持っているのでしたら、その方法は見当はずれもいいところですね。自動人形と決めつけて、精神を持つかもしれない生命をないがしろにする時点で、その意図は矛盾かそれに準ずる何かを抱えてしまっているために、誰にも聞いてもらえないでしょう。もし生きづらい世の中に一石を投じたいなら、迷惑ではなく、共感を広げるのが当然で、それが全く見えていないのがよくわかります」 そこまで言って、薬袋は溜まっていたイライラをぶつけ過ぎたと我に返る。薬袋の反撃を食らった当の本人は、口を半開きにして固まってしまっていた。
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