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台車を用意して、その上に箱を載せて、その中に溶媒管理容器という密閉できるステンレス製のやかんのような入れ物を載せていく。赤い蛇腹でお馴染みの液送ポンプを入れ、何キロ溶媒を汲んだか記録するファイルを持ち、エレベーターを溶媒等危険物輸送時に変えるカギと溶媒を保管している場所のカギを用意する。
さらに、研究室から出た廃液が溜まっていたので、廃液の入った大きなステンレスボトルを載せる。あとは、白衣と保護メガネ、薄いゴム手袋をつけて、準備完了となる。
薬袋は忘れ物がないか念のため点検し、三人で溶媒に汲みに行く。
「ドライアイスも取りに行くこと、忘れないで」
薬袋は自分にも言い聞かせるように田宮に言う。
「はい! 忘れないよう取りに行きます!」
元気に返事する田宮とそれに対比するように寡黙な東村。薬袋は対照的な後輩が揃ったものだと苦笑した。
「いい返事ね。準備はドラメタを用意すれば、すぐできるの?」
ドラメタ。ドライアイスをメタノールに溶かした寒剤のこと。文献では、マイナス七十八度としか表記されない冷却方法。
「いえ、もうちょっと準備があります」
「そう、わかったわ。準備が整うまで、東村さんとお話してるわ」
そう言って、薬袋は東村に目配せする。東村は恐縮ですと言わんばかりに慎ましやかに頭を下げて、薬袋に応える。何を話すのかなどとわざわざ問わないのが、彼女らしいわねと薬袋は思う。
「わかりました!」
田宮はただ元気よく返事をして、女の子にしか見えない無邪気な笑顔を見せる。一度、女装コンテストに強制参加させられて、男子すらファンができた逸材は違うわねと薬袋は微笑み返した。
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