固体窒素

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エレベーターで一階に下りて、外に出る。ガラガラとアスファルトの上を進む台車を気にしながら、三人は溶媒庫、つまり溶媒を保管してある倉庫まで足を運ぶ。 今回汲む溶媒は四つ。メタノール、ジエチルエーテル、ヘキサン、テトラヒドロフラン。どれも透明な液体で可燃性。それぞれ独特な匂いがあって、薬袋は仄かに甘く香るメタノールと痺れるような甘い香りのジエチルエーテルが好きだったりする。 ちなみに、メタノールは炭素一個で構成されるアルコールである。お酒でお馴染みのエタノールは炭素二個で構成されている。たった炭素一個の違いだけで、メタノールは飲むと最悪の場合、失明や死に至ることもある毒劇物であるのが、薬袋にとって興味深く感じられる。 一方で、ジエチルエーテルは麻酔と引火点の低さで有名で、匂いが充満していたら火花一つで火事になると言われている。正直、一年以上実験する薬袋にとって、幾度となく研究室がジエチルエーテルの匂いで充満しているのを経験しているが、あまり、危機感を覚えない……。 「じゃあ、俺ドライアイス取ってきますね」 薬袋と東村が溶媒をひたすら一斗缶からそるべん缶に液送ポンプで入れていく中、廃液を捨て終えた田宮は二人にそう伝えて、この場を後にした。
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