古民家レストラン

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時園春香が食べたのは、里芋ではなくこんにゃく芋だった。畑で育てていた里芋の場所に元々こんにゃく芋を育てていたらしく、まだ残っていたこんにゃく芋を里芋と間違えて調理してしまったらしい。完全なる店側の過失だった。 「そんな冗談みたいな理由が本当にあるわけ?」 薬袋は獅々友の相談内容があまりにも馬鹿げていると感じ、椅子の背にもたれかかった。 「自分も初め聞いたときは、耳を疑いました。でも、そう主張するからには、そうなんでしょう」 「もっと、他にいい言い訳あったと思うけど?」 「そこまで頭が回るほど、落ち着いてはいなかったんだと思いますよ」 獅々友は一応彼らの理由の信憑性について述べた。それに対して、薬袋は何も答えなかった。ただ、ギィとなる背もたれに体重を乗せて、薬袋はやや上の宙空を眺める。沈黙がまるで薬袋の思考を表しているようだった。獅々友は黙して、その様子を(うかが)っていた。さっきまでの話はもう薬袋の頭の中にはないと感じ、獅々友は彼女が今思考していることを邪魔するべきでないと判断したのだ。 「シュウ酸カルシウムね」 薬袋は化合物名を口にする。それは0.1 mmほどの針状の結晶で、こんにゃく芋だけでなく、ほうれん草やキウイやパイナップルなどの成分に含まれている化合物だ。 「ああ、やっぱりわかりますか」と獅々友は安堵した表情で言う。しかし、それが薬袋の癇に障った。
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