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≪平成二十五年七月十一日≫
このノートに僕の心の中にあるいろいろを書き記していこうと思う。
まずは何から書き始めようか。子供の頃の記憶にしようか。僕の原点だろうから。
全ては秘密基地にあった黒くて柔らかな土から始まった。それは僕たち子供の遊び道具にうってつけで、泥団子を作ったり山を作ったり、他にもいろんな形のものを作ったのを覚えている。
白上島という瀬戸内海に浮かぶ小さな島に住む僕たちにとって、自然にあるものを自由自在に遊び道具にするのは至って普通のことだったから、その黒い土を発見したときは便利な遊び道具を見つけた程度にしか思っていなかった。
けれど今思うと、その土があった場所はかなり怪しいところにあった。
そこは村の山側にある段畑を越えて山に入り奥へ進むと突然現れる有刺鉄線で囲まれた場所だった。有刺鉄線の柵は腐食が進んでいて、一ヵ所だけ引きちぎれて子供が通れるほどの通り穴があって、僕たちはその穴に誘われるようにその有刺鉄線の向こうに侵入した。
しかし、意外にもそこには何もなかった。
草木があまりなく、そこだけ開けた場所になっていて日が当たっているだけで、それ以外特に何もないのだ。強いて言えば、朽ちた大木が横たわっていて、よじ登って遊べるくらいだ。ただ子供だった僕たちは誰も知らなさそうということが魅力的でそこを秘密基地にすることにした。もちろん、大人の人たちはこの場所についてよく知っていたわけだが。
何日かして、秘密基地には黒くて遊びやすい土があることに気付いた。それで僕たちは遊んで帰った。その日の夜だ。
僕たちみんな手や腕、足に大きな水膨れができて、猛烈な痛みに苛まれた。すぐさま、村のお医者さんのところで治療を受けたので大事に至らなかったが、水膨れになった皮膚は焼けただれたような跡が残ってしまった。
そして、僕の父がそれで虐待の跡が誤魔化されたと笑みを浮かべていたのを鮮明に覚えている。
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