古民家レストラン

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どこにでもあるトラバーチン模様が天井に広がっていた。それは、どこかよそよそしく、時園は自分の運命など取るに足らないと言われているような気がした。 ここは病院の一室。時園はベッドに横になり、ぼんやりと天井を眺めていた。点滴が静かに一滴一滴、雫を落とす。時園はその一滴一滴が刻々と進む中、ずっと考えていた。口の中を襲い続ける痛みとそれによって強いられる点滴による栄養摂取。まるで、人として生きる力がないことを示しているようで、二十代という若さを否定されているようで、時園の心は締め付けられた。 『口内に刺さったシュウ酸カルシウムですが、取ることができません。一生このままです』 医者は無情な診断を下した。それを聞いた時園は手足の力が抜け、意識を失いそうになった。一生このままという言葉のスケールの大きさに、時園は気が遠くなったのだ。普通の人と同じように仕事を頑張って、素敵な人と恋に落ちて、結婚して、平凡ながらも自分にとっては特別な人生を歩んでいくんだ。そのはずだと、ずっと思っていた。 いったいなぜこんな目に遭わなくてはいけないの? 時園はやるせない気持ちをどこにぶつければいいのかわからなかった。いっそのこと、この忌々しい点滴装置を壁にでも叩きつけてやろうか。それに手をかけてみる。しかし結局、思いとどまった。ただ虚しい気持ちになるだけだと、時園はため息を漏らすばかりだった。 このまま一生、激痛に耐えながら、点滴して生きていくの? それを考えるだけで、時園は絶望に押しつぶされそうになった。
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