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その日は朝から晴れていたため、早ければ日が暮れるまでに人里に辿り着けるかもしれない、と僕たちは意気揚々と足を進めていた。
この2日間は止まない雪の中、野宿で過ごしたため、そろそろ暖かい暖炉と柔らかいベッドが恋しくなって来ていたところだった。
しかし、昼を過ぎた辺りから天気が急変し、瞬く間に周囲が見えなくなるほどの吹雪になった。もしこのままの天候が続けば、とても野宿などできない。
両腕で自分自身を抱き、唇を震わせるエルを励ましつつ、僕は先頭をきって進んだ。
どれくらい時間が経っただろうか。ただ寒さに耐えながら歩くことだけに集中していると、エルが背後から「あっ」と声を上げた。
「グレン、見て、あれ」
僕が振向くと、エルは前方の一点を指差していた。そして彼女が指差す先にあったものを見て、僕も思わずあっと声を上げる。
「小屋だ」
一面真っ白な視界の中に、ぼんやりと木造の建物のシルエットが浮かんでいた。
誰か住んでいる事を願いつつ、僕たちは小屋のほうへ向かって行った。
何とありがたいことに、それは宿屋だった。
扉を開けて中へ入ると、暖炉による心地よい暖かさが迎え入れてくれた。生き返った気分だった。
「ようこそいらっしゃいませ。こんな吹雪の中、大変だったでしょう。」
宿屋の主人と思わしき女性が、ゆっくりと椅子から立ち上がり、床にへたり込む僕たちに話しかけた。女性はまだ初老にも満たないと見え、宿を切り盛りするには若く感じた。
「もー―ダメかと思ったぁ」
エルが情けない声を上げる。
「お疲れのようですね。すぐに部屋にご案内しましょう」
女主人はにこりと笑い、「お代は後で結構です」と付け加えた。
すっかり疲れきっていた僕たちは、その好意に甘えることにした。
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