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兄が居るんだな、とその時僕は初めて知った。
エルはあまり自分の事を話したがらない。これまでに何度か魔法使いの街にいた頃の暮らしを尋ねてみた事をあるが、彼女らしからぬ曖昧な反応をした後にすぐに話題を変えてしまう。
話したくない事情がある事を察し、深くは追求しなかった。
自分の事を話さないのは、僕も同じだったからだ。
エルが賢者の石を探す理由には、兄や家族の事情が絡んでいるのだろうか。
気にはなったが、彼女が自分から話してくれる時を待つことにしよう。聞いてもたぶん、答えてはくれないだろうから。
「僕も寝よう。」
久しぶりに落ち着いて夜を越せそうだ――
鉄の棒で暖炉の薪を少し崩し、暖炉の火が弱まったのを確認してベッドに潜り込んだ。
眠りにつく前に、今後の旅路について少し考えようと思っていたのだが、横になった途端、それまで殆ど感じていなかった眠気が一気に強くなった。
ベッドに入ることで安心し、無意識に抑えていた疲れが睡魔となって訪れたのか、と一瞬思ったが、
―――違う、そんなレベルの眠気じゃない!
おかしいと思った頃には、もう手遅れだった。
抵抗する術も無く、僕の意識は深い闇の中に吸い込まれた。
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