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― …て、 おき…
なんだろう。
とても心地よい。
― おきて…
声が聞こえる。
まだ寝てたいな…
― グレン
遠くに聞こえていた声が近づいてくる。
誰かが僕の名前を呼んでいる。
まぁ良いか もうちょっと寝よう・・・
そう思った次の瞬間―
「起きなさいよ、このスカタンっ!!」
ばちーん!
「うわあっ」
どすん。
突然頬に走ったあまりにも強烈な痛みに、僕は思わずベッドから転げ落ちた。
何が起こったのか、状況が掴めないままぼんやりと天を仰ぐと、エルの不機嫌そうな顔が覗き込んだ。
「ご機嫌よう。気分はいかがかしら、お坊ちゃま?」
皮肉である。僕がエルをからかう時に使う"お嬢さま"の仕返しだ。
「気分としては最悪だけど、目覚めとしては最高だね。」
まどろみの中から、こうも迅速に現実に引き戻された事はないだろう。
僕はのそりと起き上がって辺りを見回す。
眠りに着く前と何も変わらない、宿屋の部屋だ。窓の方を見ると、外は真っ暗で何も見えなかった。おそらくまだ夜中だろう。
「ちょっと、何とかしてよ。」
落ち着かない様子で、エルが腕を組む。
「何を?」
「部屋のドアが開かないのよ。さっき、その…トイレに行きたくなって起きたんだけど、ドアがどうやっても開かないの。あんたは起こしてもなかなか起きないし。」
ああ。だから不機嫌なのか。
「それに・・・この部屋暑くない?」
エルは寝る前まで身に着けていたカーディガンを脱いでおり、白い無地のシャツ一枚になっていた。それでいて、薄っすらと汗ばんでいるのが見える。
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