第2話「忘れられた宿」

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 ― …て、 おき…  なんだろう。  とても心地よい。  ― おきて…  声が聞こえる。  まだ寝てたいな…  ― グレン    遠くに聞こえていた声が近づいてくる。  誰かが僕の名前を呼んでいる。  まぁ良いか もうちょっと寝よう・・・  そう思った次の瞬間― 「起きなさいよ、このスカタンっ!!」     ばちーん!   「うわあっ」    どすん。  突然頬に走ったあまりにも強烈な痛みに、僕は思わずベッドから転げ落ちた。  何が起こったのか、状況が掴めないままぼんやりと天を仰ぐと、エルの不機嫌そうな顔が覗き込んだ。 「ご機嫌よう。気分はいかがかしら、お坊ちゃま?」  皮肉である。僕がエルをからかう時に使う"お嬢さま"の仕返しだ。 「気分としては最悪だけど、目覚めとしては最高だね。」  まどろみの中から、こうも迅速に現実に引き戻された事はないだろう。  僕はのそりと起き上がって辺りを見回す。  眠りに着く前と何も変わらない、宿屋の部屋だ。窓の方を見ると、外は真っ暗で何も見えなかった。おそらくまだ夜中だろう。 「ちょっと、何とかしてよ。」  落ち着かない様子で、エルが腕を組む。 「何を?」 「部屋のドアが開かないのよ。さっき、その…トイレに行きたくなって起きたんだけど、ドアがどうやっても開かないの。あんたは起こしてもなかなか起きないし。」  ああ。だから不機嫌なのか。 「それに・・・この部屋暑くない?」  エルは寝る前まで身に着けていたカーディガンを脱いでおり、白い無地のシャツ一枚になっていた。それでいて、薄っすらと汗ばんでいるのが見える。
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