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「確かに、寝る前よりもだいぶ暑いね。」
ふと暖炉に目をやる。
すると、寝る前に弱めたはずの暖炉の火は、最初に部屋に入った時よりも勢いを増してごうごうと燃えていた。
「おかしいな。でも、暑いと思ったならまず火を弱めなよ。」
「薪を崩す棒も無いのに、どうやって弱めるのよ。あんた、どこに置いたの?」
「暖炉の横にあるでしょ。」
そう言いながら、確か棒を置いた場所を指差すと―――何もなかった。
「そこに置いたはずだけど。」
「無いじゃない。しっかりしてよね。」
「魔法で火を弱めたりとかは?」
「水の魔法は苦手なの! ・・・ああもう、いいから早くドア開けてよ。」
「はいはい、ちょっと待ってて」
色々と不思議な事が起こっているが、どうやら限界が近いらしいエルのためにまずはドアを開けてやる事にした。
とはいえ、僕は鍵開けに精通した盗賊ではないので、開かないドアの扱い方はそれほど上手じゃない。
押しても引いても開かなければ、ここの宿には悪いけれどちょっと不器用な方法になるな。
はて斧を使おうかナイフを使おうか考えながら僕がドアに触れようと手を伸ばすと・・・
ドアはキィ、と乾いた音を立て、勝手に開いた。
「ちょっと、いま何したの?」
「いや、何も・・・僕が聞きたいよ。」
ドアに手を触れた感触は一切無かった。
まるで、僕たちを導くように開いた― 不思議と、そんな感じがした。
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