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「うわっ、暑い!」
廊下へ一歩踏み出すと、部屋の中よりも更に暑かった。
まるで密閉されたサウナのような温度だったが、じわっとした湿度はない。
まるで、火に炙られているような暑さだった。
「どうなってるのよ、この暑さ。とにかくちょっとトイレ…」
そう言ってエルは部屋を出て、廊下の奥へ歩き出した。
次の瞬間、彼女が向かう先から、木がバキン、と折れる大きな音を聞いた。
「エル、だめだ!」
「きゃあっ」
反射的に、エルの腕を掴み引き寄せた。
咄嗟の事で手加減できなかったため、エルは後ろに吹き飛び思いっきり尻餅をついた。
長い年月狩人として過ごしていると、独特の"嫌な予感"を感じる時がある。特に、命に関わる事が起こりそうな場合だ。
そういう時は、いつも考えるよりも先に体が動いた。
今回の場合もそうだった。
エルが起き上がろうとした次の瞬間。
おそらく僕に文句を言おうとしたその時―――
廊下の奥の、トイレの扉が勢いよく開き、ボウッと火炎が吹き出した。
炎は木造の建物の壁と床を伝い、エルが足を踏み出そうとしていた場所までを瞬く間に燃やしていく。
エルは、起き上がろうとした手に力が入らなくなったのか、再びぺたん、と尻餅をついた。
目を見開き、何も言葉にできず、ただ息を荒げて目の前まで迫った炎を見つめている。
それは僕も同じだった。
少しでもエルを引き寄せるのが遅ければ、彼女は突然吹き出してきた炎によって火だるまになっていただろう。
そう考えた瞬間、心臓がバクバクと音を立てて焦りと危険のサインを伝えてくる。
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