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すでに燃え尽きて黒ずんでいる枕の横に、確かにポーチはあった。
不思議なことに、ポーチは燃えておらず、火に炙られたような傷も一切ついていない綺麗な状態だった。
ポーチを取ろうと手を伸ばすと、僕の袖がめらめらと燃えている事に気づいた。
後はこれを持って、来た道を戻るだけ。
ポーチを片手に、部屋の入り口の方を見る。
すると、僕の目の前にはとても熱く、とても厚い炎の壁が立ち塞がり、退路を断っていた。
――ああ、これは駄目かもしれない
僕の心に、ほんの少しの諦めがよぎった。
それだけで、僕の体を動かなくするには十分だった。
前に踏み出そうとした足は、残念ながら地面から浮くことは無く、かわりに膝から崩れ落ちた。
――ちょっと、格好つけ過ぎたかな。
先程から呼吸もできず、いよいよ意識が遠くなってきた。
僕の全身はすでに炎に包まれており、先程まで感じていたやけどによる激痛も感覚が麻痺してきたのか、あまり感じなくなっていた。
しかし、僕の心を諦めが支配しかけていたその時だった。
「グレン、頑張って!」
部屋の入り口の方からはっきりと、エルの声が聞こえた。
彼女の声は、まどろみの中から叩き起こしてくれた時と同じように、失いかけた僕の意識を引き戻してくれた。
先程と違って頬こそぶたれなかったが、それだけで十分だった。
――そうだ。ポーチをエルに届けなくては!
僕は力を振り絞り、立ち上がる。
すると、思っていたよりも簡単に立ち上がることができた。
体が急に軽くなったような感覚だ。
そしてやけに涼しい。
気付くと、全身を包んでいた炎も消えているではないか。
いったい何が起きたのか、辺りを見渡す―
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